みなさんは、「1泊2食」という温泉旅行に、どんなイメージをもっていますか?
「やっぱり温泉旅行っていえば、1泊2食付きでしょう」
そう思われる方が多いのではないかと思います。
最近でこそ、外国からの旅行客が増えて、そうでもなくなってきてはいますが・・・
日本の温泉旅館は、むかしから「1泊2食付き」、1部屋にふたり以上で宿泊するスタイルが基本で、今でもほとんどの旅館がそうだと思います。しかし、ひとり旅が好きな私は以前から、この「決まり」に疑問を抱いていました。
私の場合、取材などで「ひとり旅」をする機会も多いため、泊まるのはだいたい「素泊まり」か「1泊朝食付き」が可能な宿です。もしかすると、「素泊まり」には寂しいとか貧乏くさいとか・・・マイナスのイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、私は「素泊まり」にこそ、旅の本当の楽しみ方があると考えています。
しかし、ひとり客を泊めてくれない、あるいは、あまり歓迎してくれない温泉宿って、実はまだけっこうあるように思えます。たいていの宿は、素泊まりの「ひとり客」も歓迎してくれますが、中には「ひとり客は倍額」と、いうところも。いやあ、こんなご時世に、なんともせちがらいですねえ・・・。
まあ、旅館側の事情もわかります。ひとり客は1人で1部屋を占領するから割が合わないとか、素泊まりで食事代が抜けると、儲けもその分少なくなるからでしょうか。夕食抜きだと「自慢の料理でおもてなしができない」という考えもあるのかもしれません。
もちろん、こういう「質素」な夕食であれば、大・大歓迎。
たしかに、宿が心をこめて出してくれる夕食は美味しいですし、もちろん夕食付きの場合はありがたく頂きます。ひとり旅ではない場合とか、山奥の一軒宿などで周りに何にもない場合は、いただくこともあります。でも、宿の食事はたいてい多すぎるように感じるんです。正直、「重たいな」と感じることが多い。
食べたいものは、自分で選ぶ
私としては、酒の肴になるような簡単な郷土料理の1~2品でもあればいいのです。その土地でしか食べられないような郷土料理、たとえば山の宿なら川魚の塩焼きとか煮たもの、山菜の漬物などでも十分だし、それを「自分の眼と勘でえらびたい」のです。コース料理みたいに一度にドカッと置かれたり、急かされるようにして次々と運ばれてくるような食事スタイルが嫌なのかもしれません。
せっかくのご馳走ですが、酒を飲みながら食べていると、天ぷらとか鍋料理が出てきても箸をつけるころには冷めてしまうこともあります。そもそも一人旅とか、気心知れた友人同士、中年や熟年夫婦の旅に、食べきれないほどの豪勢な夕食は、はたして必要なのだろうか、と考えてしまうのです。
旅先で「いい店」に巡り合えたときの感動はすばらしい。五感を研ぎ澄ませ、されど自然体でなんとなく見つける。
それよりは宿の近くの酒場の暖簾をくぐり、自分が食べたい料理を食べたいだけ注文し、地酒とともに味わう。また、その場の雰囲気を愉しむ。といっても、観光客ばかりが来るような店は駄目です。地元の人に愛される店を訪ね、その土地ならではの空気感とか人の気質が感じられる店を選びます。ご主人や女将さん、常連客と話すのもよし、静かに黙って飲み食いするのもよし。時に飲み代がかさんで「宿で食べたほうが安く済んだ・・・」なんてこともありますが、それも大いにありだと思うのです。
伊東温泉では、思いがけずマンボウの刺身に出会えた。こういうのが素泊まり旅の楽しみである。
朝食について
日本の旅館の朝食というのは、それだけでひとつの文化といっても過言ではありません。あまりに「素泊まり」ばかりでも素っ気ないし、「1泊朝食付き」をお願いすることもよくあります。
好きだけど、ついつい食べ過ぎてしまう旅館の朝食
「素泊まり」のデメリットとしては、宿の人と接する機会が必要最小限になってしまう点があげられます。チェックイン・チェックアウトの時ぐらいで、その宿の人となりを満足に感じられないままに終わってしまうこともあるので、ちょっと残念に感じることもあります。
そういうときに「1泊朝食付き」であれば、少しではありますが、宿の人と2つや3つは言葉を交わすことになるので、その選択をとることがあります。ただ、これにもデメリットがないこともありません。
宿の朝食はおいしいので「朝から食べ過ぎてしまう」のです。私は炊きたてのご飯が大好きですし、宿のご飯茶わんだと小さいので、3杯も4杯も食べてしまいます。おかずの品数も多いので、ついつい進んでしまうというのもあります。
そうすると、食後に部屋でまた、ゴロンとしたくなってしまう。たらふく食べてお腹もすかないので、昼食も食べられなくなってしまいます。旅先でのせっかくの昼食タイムも「まだ腹へってないからいいや」と、パスしてしまう羽目に陥ります。
翌朝、温泉街にこんなおでん屋があるとつい引き寄せられてしまうのだ。(伊香保温泉)
これが素泊まりであれば、チェックアウトした後に、なにかちょっとしたものを買ってつまんだり、立ち食いそば屋なんかがあったら、サッと食べて朝飯がわりにできる。そういう楽しみもできます。おいしい昼食に備えて朝食を抜く選択肢もありだし、電車で移動する場合は、朝から「駅弁」なんていう手もあります。素泊まりと1泊朝食、いつも悩ましいところです。
朝食代わりに高崎「だるま弁当」なんてのも、なかなか乙です。
最後に、宿の接客。あまりに気の利いた接客だとかえって恐縮してしまうので、よくガイドブックに書いてあるような「丁寧なおもてなし」なんか要りません。つかず離れず、最低限の接客さえしてくれれば、それで十分気持ちよく過ごせます。温泉さえ良ければ、ビジネスホテル並みで全然かまわないですし。
さて、そういったわけで「素泊まり」が理想的な私の旅というわけです。私は何がなんでも「1泊2食付き」を否定したいわけではありませんし、絶対的に「素泊まり」を提唱したいわけでもありません。あくまで、その時々の気分とか、懐具合とか、同行者の趣向などによって自由に旅したいだけ。固定観念にとらわれず、柔軟に愉しむべきではないかと思うのです。
ひなび湯 ほろ酔い温泉 代表:上永哲矢