人生で大事なことは、みんな湯治場で学ぼうじゃないか【秋田県・後生掛温泉】

【秋田県:後生掛温泉】

「馬で来て、足駄でかえる後生掛け」
秋田県の北西部、岩手との県境に古くからある湯治場、後生掛(ごしょうがけ)温泉には、
その確かな効能をあらわすような、おなじみのフレーズが地元に伝わっているそうだ。

ここは山の中にある一軒宿で、パッと見るとそうでもなさそうだが、
「本館」「新館」「湯治棟」に分かれていて、かなり規模は大きい。

本館と新館は食事も出る一般客向けの旅館になっているが、
私は当然のごとく、自炊が基本の湯治棟に泊まってみた。
「湯治村」と呼ばれ、収容人数200名におよぶ規模を誇っている。
夕方に着き、さっそく共同の炊事場に行くと、
いそいそと夕飯を調理中の湯治客のかたがたに会えた。


「何をつくっているんですか?」
「しょっつる、だ」


あるご夫妻が作っていたのは秋田名物・ハタハタの鍋物である。
魚がやわらかそうに煮え、なんともいい匂いが漂っていた。
すぐ隣に、肉じゃがを仕込中のおばあちゃんもいる。


話を聞けば、冬場はこうして1ヶ月ぐらい湯治に来ている人も多いそうで、
昔ながらの湯治文化というものが、ここにはまだこうして根付いているらしい。
ここに泊まれば、生きる上で大切なことがみんな学べるような気がする。


都会では見られなくなった共同生活の場、助け合けあいの空間である。
私も束の間の湯治生活を楽しもうと、この日はパソコンも携帯も開くことなく、
地元の湯治客との会話や、濁りある後生掛の名湯を満喫することにした。

1年中地熱で床が温かいオンドル宿舎は、リウマチや神経痛に効く。
ここで寝泊まりするだけでも湯治効果があるという。
写真のおばちゃんたちが食事しているオンドル大部屋は、
いわゆる相部屋で1泊2100円(素泊まり)。個室は3360円と無理のない値段設定となっている。

なんだか、みんな笑顔で楽しそうだ。ここで暮らすと長生きできそうな気がする。
私はこの日、何も食材の準備をしていかなかったので、個室に1泊2食付き9600円で泊まったが、
しばらく大部屋に逗留してみるのも、悪くなさそうだった。

食事処で供された夕食は、きりたんぽ鍋以外は特筆すべきものはなかったが、
質素ながら量が程良く、味もほど良く、ありがたくいただいた。


大浴場へ行ってみた。入念にかけ湯をしてから入湯。
湯気がもうもうと立ち込めており、写真があまり撮れなかった。ご容赦。
天井の高い木造りの山小屋風で普通の木枠の湯船のほか、箱蒸し、泥湯などがある。
長い当時生活も飽きずに楽しめそうな造りだ。もちろん、湯が良ければ普通の内湯だけでも十分だが。


こぢんまりとした露天風呂があった。湯治客のおじいさんが気持ちよさそうに雪見風呂で寛いでいた。
泉質は酸性硫黄泉で、冒頭のような唄ができるぐらいだから、本当に効能が高そうな名湯である。

1日漬かっただけでは、温泉の効果などは本来得られないかもしれないが、
生きた湯というのは、精神的にも非常に良く作用する。
じっくりと浸かっていると、身体じゅうに活気が満ちてくるようだ。


成分濃厚な湯は実に気持ち良かった。東京に帰ってからも、まだ体中が硫黄臭かったほどだ。
私も湯治客として一ヶ月ばかり過ごしてみたいものだが、なかなか、それは叶わぬ夢といえる。


冬場は予約しておけば、行きも帰りも最寄の鹿角花輪駅まで送迎バスがある。
後ろ髪をひかれる思いで宿を後にした。


駅の待合室。立ち食いそばの美味しそうなにおいが漂っていて無条件に引き寄せられる。
電車待ちのあいだ、せっかくなので名物「きりたんぽ鍋」を注文。


ゆうべ、宿でも食べたばかりだというのに、つい・・・。
熱々の澄まし汁は、宿で食べたものとは一味違う、さらに素朴な味。
その温かさが胸にしみわたるような味わいだ。
立ち食いそば屋で、こんなものが食べられるなんて。


雪国だからこそ、人々の情が通いあい、その温かさに触れられる。改めていいところである。

後生掛温泉 http://www.goshougake.com/

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