いくつになっても愛したい、昭和な温泉リゾート【静岡県・熱海温泉】

【熱海温泉/駅前温泉浴場】


熱海。むかしから大好きな温泉地である。横浜生まれの私は、小さいことから家族や親戚、友人の家族らともよく足を運び、慣れ親しんでいた。

そのころの熱海は、とにかく元気だったし活気があった。夏休みともなれば、巨大なホテルの温泉で泳ぎ、夜はゲームコーナーで遊び・・・子供ながらに目いっぱい愉しんでいた。もちろん、今のような温泉の愉しみ方とは違ったかもしれないが、バブル期以前の歓楽温泉地として光り輝いていた。そんな記憶が熱海にはある。


(2017年ごろから、このロマンス座の跡地と看板はなくなっています)

そして、それが終わってからのくたびれようもまた、たまらなく好きで、大人になってからも、事あるごとに訪れている。そのくたびれた印象自体は今も変わっていないのだが、どうも近頃は、駅周辺がすっかりオシャレになりすぎている。


小ぎれいに整えた足湯なんかもできたりして、がらりと雰囲気が変わってしまった。あの雑多な、昔の風情がなくなってしまったような喪失感がある。ただの我がままだが・・・なんともやるせない。


でも、そんな心配はまだまだ無用なのかもしれない。駅を出て右へ折れれば、昔ながらのアーケードが健在だし、大衆的な食堂も、割とよく残っている。


熱海銀座方面へ降りていくと、昔ながらの喫茶「くろんぼ」もある。「くろんぼ」といえば、そう。昔、ダッコちゃんが流行った。たしか、某団体から黒人差別にあたるからというクレームがついて、製造中止に追い込まれたんだっけ。それで『ちびくろサンボ』も絶版になった記憶がある。一部のひとのつまらない思惑で、面白みのない世の中になっていく。


ここ数年、熱海では昔ながらの共同浴場が減少の一途を辿っていて寂しい限りだが、駅のすぐそばに、この「駅前温泉浴場」が健在なのは僥倖というほかはない。熱海の良心と言おうか、昔のままの熱海、その面影を残す貴重な歴史遺産といっても過言ではない。


500円を支払い、中へ入るとカミソリの自販機に下駄箱。靴入れではない。「下駄箱」と書いてある。こういうのを見るだけでも、なんだか昔の熱海が生きているようで、ホッとする。


こぢんまりとした待合いスペース。ステンドグラスのような小さな飾りがある。立地上、カギ付きのロッカーであるが、脱衣所もいたって簡素で好ましい。


脱衣所へ入ってみると、ロッカーの脇に腰かけひとつ。余計なものは何ひとつない。


浴場は近年改装されたため、きれいに整っている。ひなび感は薄まってしまったけれども、湯船に満ちあふれた、その湯は本物。どうだろう、このほどよく濁った感じの色あい。熱海らしい、塩分が濃厚に入った当たりの強い湯だ。湯上がり後、じっとりと汗が滲みだしてきた。至極、からだが温まって爽快な気分である。


夜9時閉店、厳守。先程も述べたように、熱海には地元民御用達の共同湯がかつてはたくさんあったが、絶滅しそうな勢いで姿を消している。共同湯としては、いまや他に山田湯、清水町浴場と、東の伊豆山温泉にある走り湯ぐらいしかない。これらの浴場には、せめて末永く続いてほしいものだが。


さてと、湯上りだ。ビールが飲みたい。熱海銀座を通って、海岸に近い「レストラン宝亭」へ。ここは昔からお気に入りの大衆的な洋食店である。


キリンラガーを頼むと、クラッカーがおつまみとして付いてくる。実に気が利く。1本ごとに持ってきてくれるので、このクラッカーだけでも少しお腹が膨れるぐらいである(笑)。


そしてカレーライス。この飾り気のなさがいい。ルーが黒っぽく、ドロドロとして甘口である。本来は辛口のカレーのほうが好きだが、こういう店で味わう昔ながらのカレー。まったく不満はない。お店としてはカツカレーがイチオシのようだが、私はいつもこの普通のカレーか、目玉焼きとキャベツが付いた「カレーランチ」を注文している。


ビールが進み、ひなほろ気分で、レストランのすぐ脇にある「ゆしま遊技場」に入り、射的に興じた。まずまず、うまく行って景品を得る。他愛もない景品ではあるが、このゆるさが温泉街ならではだ。


熱海銀座の喫茶「パインツリー」で、パックマンなどをプレイする。昔はこういうテーブル型のアーケードゲームばかりだった。店の一角では、子ども用の玩具や花札なども売っている。


プリンアラモードなどを食べてみた。ボリュームがいっぱい。


こういう昭和の風情を残す店が、熱海にはまだ何軒か残っている。居心地が良すぎて、何をするでもなく、ついつい長居をしてしまう空間であった。何度訪れようとも、やはり熱海はその温泉の質のすばらしさもあって、歴史に裏打ちされた素晴らしい温泉街である。

タイトルとURLをコピーしました